こんな壁一枚。されど、壁一枚。



    その部屋はかかっていない




かたり。
音が聞こえてソファに寝そべって玄関の方を見つめた。
外はまだ明るい。
誰だろうなぁ…とは思ってもここに帰ってくる人間はオレの他には一人しか知らないわけで。

「ヒヤマさん〜?おかえりぃ」
「…おー。ってなんつーカッコしてんだよお前…」
「今日仕事っつってなかったっけ」
「終わったんだよ」
「あ、そ…ですか」
「そ」


し…ん。

しまった。
話題が無い。

慌てて取り繕った笑顔は向ける先を失ってしまい。


何故ならそこに姿がないから。


あれ、と部屋を見回せば部屋を空ける2歩前で。
普段ならココで馬鹿話に花が咲く筈なのに。

「ひーちゃん…?」

不思議そうにそう言えば帰ってきたのは言葉2つ。

「…眠い。寝る」
「飯食いましたか」
「…多分」
「ちょ、多分って!?ああひーちゃんってば!!」





ばたん。
と。



無情な音を響かせて閉まるドアに一種の儚さが。
なんて詩人をしている場合では無いと自分で突っ込んでも虚しいだけで。




「はぁ…」


ついた溜息は静かな部屋には重すぎたようだ。






部屋がある。
ヒヤマさんには。
寝るための場所。
オレはリビングで寝るから無いけど。

そう…寝るための、場所なのだ。
それ以外には必要ないというほどに使われていないから。
こうなっている理由がオレのせいかどうかなんてのは知らない。

ただ…オレが知っているヒヤマさんの生活はそうだというだけ。
…守護天使と言えども、私生活までは関与できないし。





壁一枚。
そんなもので遮断できる存在なんだ、オレ。






壁一枚。
こんな…脆そうなものに。









はぁ。
再度ついた溜息が風に乗って消えた。




知っている。
鍵なんてついてないこと。
ほんとは知ってる。

いつでも入れること。
ヒヤマさんも『入るな』とは言わない。


入れない空気があるだけ。





壁一枚。


オレとヒヤマさんの境界。




かたん、小さくと音を立てながら扉に寄りかかった。
冷たい無機質が背中に心地良い。

薄っぺらい壁。


「はぁ…」



3度目の溜息は疲れ果てたような声。
何に、とかは考えず。
考えたくなく。

オレは、静かに目を閉じた。






*****



時間の経過とは早いもので。
と言うか、いつの間にやらオレは眠っていたらしく。
ベランダから見える空は薄ら明るさを持っている。


そういえば首が痛い。



「…喉渇いた」

冷蔵庫になんか入ってたっけ…と思いつつ立ち上がって、首をこきりと曲げた。
いった。
微かに呟いて、あははと笑った。

虚しい。






「麦茶。酒。酒かな」

訳の分からない事を言いつつ。
手に取ったのは缶ビール。


プルトップを開けて一気に飲み干し息をひとつ吐いて。

はぁ。



「…首、痛い」

しかし自業自得と知っているからどうしようも出来ず。
見上げた時計は5:15。
ヒヤマさんははまだ起きないかな。


思った瞬間。




「…。早いな」
「ひっ…やまさっ…ッ…?」
「日本語話せよ…」
「お…おはようございます」
「おー」


淡々と。
…そういえば昨日寝につくの早かったっけ…いやそれにしても…。

「日本人は老人が早起きなんですよね…」
「俺は老人か」
「ぎゃッ!」



驚いた。
隣にいるものだから。



「…俺は怪物か…?」

その反応は無いだろう、と小突かれる。

ごめん。
一言謝って。



「それにしても、今日は早起きですねェ。なんかあるんですか」
「……あー…なんだ」


あれ。
随分、歯切れが悪い。


どうしたのかと顔を覗き込もうとしたら、逸らされて。
それから。


「…誰かさんが、ずぅーっと扉を塞いでいてくれたおかげで水飲みにも行けませんでしたので」



へ。



10秒。
20秒。
30秒。


どれくらいの間、時が止まってたか。

時が止まってなかったら、オレは固まってたか。



ヒヤマさんの言葉が頭の中に浸透するのに、どれくらい時間が掛かった。

誰かさんが、扉を塞いでた。




それって。



「えェえええええぇえええええええっ!!!!!!!??」



顔から火が出るとはこの事か。
きぃんとした自分の声が響く中、漠然とそう思った。


一晩中。
扉の前で寝ていた俺。



それを。



ぱくぱくと。
まるで金魚だ。
口の開閉は出来ても言葉が出てきてくれない。



「ひッ…」
「火?」


「ひッ、ひーちゃんの大馬鹿野郎…ッ!!!」




そんな捨て台詞。


ぽかんとしたヒヤマさんを眼の端に映したまま、逃げ出すようにベランダに行くドアをがらりと開けて。
ほぼ、無意識のうちに飛び出していた。

飛ぶのは久しぶりだとか、そんなことは一切思わず。





あるのは、ただ。























ただ。
漠然とした、変な感情。



































その名前は、まだ知らない。













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意味が分からん(死)
書き忘れた。この日を境にヒヤマさんの部屋の扉は開けっ放しになったそうです(笑)
もりひーになってくれたでしょうか。
こんなものでよろしければ、ころすけ様に捧げます。
多大なる愛をこめて(いらん)
1300HIT、ありがとうございました!









kyosukeさんからいただきました♪
サイトの1300HITをGETしていただいたステキノベル♪
森川サンは「天使」という設定だそうです(>ω<)
森川サンがかわいくて…!!!!!
くうっ………!!!(鼻血)
ありがとうございましたー!!!!!



↓ちょっと…妄想がふくらんでしまって…
注)kyosukeサンの森川サンはかっこいいです!(>ω<)
出来心…