仲良しトリオ 某日 某所……  檜山修之は、小さく身震いをする。 「……嫌な予感がする……。」  本日一日中ずっと寒気がしていた。風邪……ではないだろう。こう言う職業だからこそ、そう言う部分には気を使っている。 「……?」  仕事中に何かあるのかと思ったけれど、何も無かった。帰り道に何かあるのかと気を張っていたが、やはり何も無かった。  そして、今何も無く家に着いた訳で……。 「これで終わるのか?」  しかしそれを否定するかのように相変わらず背筋がぞくぞくする。不安を抱きながらも玄関のドアにかぎを差し込んだ。 「あれ?」  かぎが開いている。 「開けっ放しだったのかなぁ?」  ちゃんと鍵を閉めたと思っていたのに。そう考えて中に入った。一瞬泥棒かもしれないという考えがよぎるが、足跡も無ければ物音も無い。  いつも通り玄関の鍵を閉めて、廊下を歩き、居間につく。 「………まぁ、何も無くてよかった。かな。」  そう呟いて伸びをした。途端、ガタリという音がする。 「!」  声は出さなかったものの、かなり驚いたらしい。足音を忍ばせて音のした方へと向かう。間違いなく、そこは自分の寝室だった。 「………。」  そっと逃げ腰ながらもドアを開ける。そして床に落ちている大きな物体に気付いた。 「……なんだよこれ。」  毛布をかぶっているので一体なんなのかわからない。大きさからして人だろうか?  小さく小突いてみると、それは小さな唸り声を上げながらモゾモゾと動いた。そこから金色の髪が見える。 「まさか……」  そんな事あるはずがないと思いながらも、毛布を手荒に剥ぎ取った。 「あと五分……」  よくあるセリフを言いながら現れたのはやはり相方……森川智之だった。 「何寝てるんだこのボケ!!」  思い切り揺り起こす。脳味噌がシェイクされるくらいに思い切り振ってやるとようやく重たそうに瞼が開かれた。 「あ、ひーちゃんお帰りぃ。」 「お帰りぃじゃない。どうして此処にいるんだ?」  尚も眠たそうな目を擦りながら森川は体を起こした。 「あぁ、合鍵だよぉ。」  へへへ、と眠たそうにろれつの回らない声で答える。 「いつ作った!?」  かぎを森川に渡した覚えはない。それなのにいつの間に!? 驚いている檜山を尻目に、森川はちょこんと床に座り込むと手に持っていた紙袋を目の前に差し出した。 「な、何だ?」 「いいからいいから。開けてみて!」  一体何がどうなっているんだ?そう考えながらも期待に満ちた目でそう言われて喉元まで来た言葉を飲み込んで紙袋を開けてみる。 「……クッキー?」  綺麗にラッピングされた半透明の袋が紙袋の中に入っていて、その中からうっすらと見えのたのはクッキーだった。 「せーかいっ!!」  嬉しそうにそう言われる。 「でも、何でクッキーが……あっ!!!」  ようやく気付いた。一ヶ月前、バレンタインの時。 … 一ヶ月前 …  コンビニで喉飴を買おうと思っていた。飴の陳列された棚をずっと見ている。 「ひーちゃん。」 「うわっ!」  突然の後ろからの声に驚いて振り向くと、森川が立っていた。 「驚かさないでくれ……」  大きな声で驚いてしまったせいか、コンビニにいた人達の視線が檜山を射る。その視線を感じながら檜山は森川に言った。 「いやぁ、適当に歩いていたらひーちゃん見つけたからさぁ。」  えへへ。と笑っている森川の手にはコンビニのチョコレート菓子。 「……。」  嫌な予感がした。予感というよりは確信だろう。 「買って?」  ほらきた。……まぁ、いいけどさ。 「わかったよ。」 今日は何だか気分がいい。檜山は森川の手にあったチョコレート菓子を取るとレジに並んだ。 「ありがとうございました。」  コンビニを出てすぐに森川にチョコレートを渡す。 「ほら。」 「ありがと〜〜。ひーちゃんからチョコレート欲しかったんだよ!」  何度もありがとうと連呼される。たかだかチョコレート一つで……そう思ってようやく気付いた。 「今日……」 「そう。バレンタイン!!」  だからって、どうして俺が森川にチョコレートを……。そうツッコミをいれようと思ったら、森川が視界から消えた。慌てて姿を追う。  森川は自分の後ろで小さく手を振っていた。 「じゃ、忙しいから。じゃーね〜〜。」 「……それだけだったのか……?」  森川が走り去る姿を見送る。妙にその後ろ姿が嬉しそうだった。 … 現在 …  そう言えば、そんな事もあったかもしれない。 「もしかして……」 「そう。ホワイトデーのお返し。」  にっこりと森川が笑う。もしかして、朝からの寒気はコイツの行動を虫が知らせていたのか? 「お返しって、そんな…。」  確かにチョコレートを渡したけれど、コンビニで買っただけだからお返しを貰う訳には……。 「いらない?」  まるで捨てられた仔犬のような目で見られ、檜山の言葉が詰まる。 「……ありがたく、もらい、ます。」  つい受け取ってしまった。 「いやぁよかった。」  嬉しそうに森川が笑う。よく表情の変わる奴だ。 「じゃ、俺はこれで。」 「この為だけに待ってたのか?」 「そうだよ。」  さも当たり前のように言われる。  唖然としていると森川は立ち上がった。そして玄関に向かう。 「じゃーねー。おやすみー。」  クツを履いて立ち上がると、ブンブンと手を振る。 「あぁ。気を付けて帰れよ。………あと、ありがとう。」 ただありがとうと言うだけなのに、改めて言うと何だか恥ずかしくなってしまう。 自分の言葉に森川は一瞬きょとんとした顔をしていたが、にっこりと笑って 「いえいえ〜。」 と、言うと去っていった。 「……嵐みたいだ。」  そう考えて、口に出していた事に気付く。来るとどたばたして、通り過ぎた後にはすっきりと晴れている。そんな感じだ。 「あ。」  一つ、大切な事を忘れていた。 「どうして合鍵持ってるんだよ。」  大きな疑問を残したまま、嵐は去っていったのだった。 … 後日談 … 「で、どうしてまた俺の家にいるんだ?」  檜山は森川に問い掛けた。問い掛けると言うよりはもはや問い詰めると言っても過言ではないだろう。 「え?別にいいじゃん?」  まるで我が家のようにくつろぐ森川。片手にはコーヒーの入った檜山の家にはなかったマグカップ。 「アクセルはどうするんだよ!?早く家に帰って構ってやれ!!」  何とか追い出そうとアクセルの名前を出す。と、森川は一瞬戸惑った表情をした。 「構っていいの?」 「は?」  森川は小さくニヤリと笑うと居間の隣の部屋のドアを開けた。そこから出てきたのは茶色い物体。 「!!」 「アクセルー。おいでー。」 「何で連れてきてるんだっ!!!!」 「だって、独りぼっちでお留守番は悲しいだろう?なー、アクセルー。」  アクセルは何も知らずに嬉しそうに森川に擦り寄る。 「このボケ!!」 「だって、俺犬好きだからさぁ。」  ニコニコと笑いながら森川が言ってくる。 「関連性がないだろ!!」 「あるよ。ほら。ひーちゃんって犬に似てるし。」  一瞬思考が止まる。 「嫌味か?」 「まさか。あ、コーヒー貰うよ〜〜。」  そう言ってポットに向かう森川を見て溜め息をつく。 「なぁアクセル、あれが飼い主って大変だな。」  アクセルは小さく首を傾げた。 「まぁいっか。どうやってここのかぎを手に入れたか調べないとな。」  まるで檜山の言葉に同意するようにアクセルが軽く吠える。 「お、お前もそう思うか?」  当然!と言わんばかりにアクセルが吠えた。そんな様子を森川が片手にコーヒーを持って笑いながら見ている。 どうやら、アクセルと檜山も気が合うようだ。 アクセルが森川に似ているせいか、それとも檜山が犬に似ているせいか……。 真実は誰も知らない。



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相方・天地冥華さんにいただいたホワイトデー小説です♪
「買って?」がとっても「らしい」なぁ…( ̄ー ̄)
やはり、合鍵は必需品ですネ★