東京都某区にて………



「……?」

 全身黒づくめ、金髪、サングラス、宝石の入っているかのようなごつい鞄………。
見た事のある姿に、檜山修之の足が止まった。

 気付かれないように、遠巻きにその男を眺めた。見るからに怪しげな男は案の定近
くをうろついていた警官に発見され、尾行されている。

 暫く見ていると、その男は警官に掴まった。

「あーぁ。」

 職務質問をされているのだろう。気付かれればきっと巻き込まれる。ので、ゆっく
りと悟られないように近づく。二人の会話が聞こえてきた。

「だーかーらー、怪しくなんか無いですよー。」

 聞き覚えのある……いや、よく聞いている声に大きな溜め息が出た。間違いなく、
警官に掴まっている怪しい男は………自分の相方(漫才師じゃないが、自分と彼の関
係を表すにはこれが一番だ)である森川智之だった。

「急いでたから保険証も免許証も忘れちゃって……」

 森川ならありえる。が、警官からしたら言い訳にしか聞こえないだろう。帝王森川
も、これでは形無しのようだ。

「ちょっと交番まで良いですか?」

 やっぱり、だ。そう考えていると、森川は想像できない言葉を口にした。

「それって、任意同行ですよね?」

 キラリとサングラスが光る。おいおい、まさか拒否するつもりか?余計に怪しまれ
るぞ。

「行きません。」

 言ったよ!!!!!怪しまれるだろうが!!!!

 しかし檜山の心の叫びも虚しく森川は警官に連れて行かれる羽目になった。檜山
は、どうやらずっと立ち尽くして二人を見ている自分も怪しいと周囲の人に思われて
いる事を知らない。

「え〜〜〜〜。」

 嫌だ嫌だと駄々をこねる子供のように森川が手をじたばたさせる。と、その瞬間森
川と檜山の目が合った。

「やばい……」

 急いで逃げようとした途端、森川が大声で檜山を呼んだ。

「ひーーーちゃーーーーーーーーん!!!!!」

 今まで見てみぬフリをしていた通行人も、思わず森川を見てしまう。

「呼ぶなああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!」

 その声にさっきより大勢の人が振り向く。

「!!!」

 しまった、と思った時にはもう遅い。警官+森川が檜山の元へと歩み寄ってくる。

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」

 森川を見つけた時点で、この結末は決まっていたのかもしれないと腹をくくり、檜
山は大きな溜め息をついたのだった。





 交番で森川は素晴らしい待遇を受けていた。言うならば、常連客に対するような対
応……。きっと、ようなじゃなくて、常連客なのだろう。

「またどうぞー。」

 森川と同じノリの人が森川にそう言った。森川も森川で、

「またきまーす。」

などと言っている。

 交番を出てすぐ、檜山は森川に突っかかった。

「おい。」

「怒ってる?」

「当たり前だ。」

 滅多に無い休日を、こんな形で迎えるなんて。

「あーぁ。アンラッキーだ。」

 小さくそう呟くと森川にも聞こえたらしく、ニヤリと笑った。

「俺はラッキー☆」

「はぁ!?」

 とても嬉しそうにそう言う森川に、檜山が聞き返す。

「ひーちゃんに会えたし、漫才できたし。」

「してないっ!」

 思わずそう言うと、森川が嬉しそうに笑った。

「今ツッコミいれたよな?」

 言われて檜山がハッとするが、もう遅い。

「やっぱり、ツッコミしてくれるのはひーちゃんじゃないと。」

「おいおい。」

何だか森川のテンションに乗せられている。でも、そのテンポのよさに、思わず気を
許してしまうのだ。

「なー、ひーちゃん。」

「あ?」

 不機嫌を装って返事をする。

「これからもよろしくな。」

「………。」

「な?」

「………こっちこそ。」

 変なテンションに乗せられて、差し出された手を握る。

 ………どうやらコイツには敵わないようだ。





後日………

「あれ……?」

 檜山のカレンダーに、覚えの無いマークが書いてあった。そしてそこには『おまえ
ら』の文字。

「こーゆー事か。」

 大きな溜め息を一つ。何がどうであれ、森川に振り回される事だけは確定のよう
だ。

END



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相方の天地 冥華サンにいただきました〜!
半ば強制的でしたが…ゴメン。そしてアリガトウ!
檜山サン職質リストに追加!?
受難の日々は続く…。( ̄ー ̄)○”