記録的猛暑。 … 某日某所 …  蝉時雨。太陽。夏。今日の気温は、楽々35度を越えるそうだ。  しかも、そのうだるような熱さの中で、クーラーが故障した。 近くの電気店に問い合わせてクーラーの故障を直してもらうように頼んだが、 他の家でもクーラーの故障が多発しているらしく、クーラーの故障を直しに来るまであと5時間くらいかかるらしい………。  窓は全開にしているし、団扇を使った。扇風機も使った。しかしこの熱さは尋常じゃないらしく、まったくもって涼しさを感じられない。  熱い。何が何でも熱い。何でこんなに熱いんだ?熱すぎるだろう?熱いって。熱い!!! 「熱いいぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!」  余りの暑さにキレた檜山VOICEが開け放った窓から周囲へと響き渡る。蝉の大声量すらかき消す声に、遠くの日陰で休んでいた猫が飛び上がった。 「はぁ……はぁ……」  肩で息をするくらいなら叫ばなければいいのだが、叫ばずにはいられなかったらしい。 「熱ぃ……」  目の前がくらくらする。もう、駄目かもしれない………。体を床に寝かせて目を閉じた。  暫くして、冷たい物が頬に触れた。 「んっ?」  重い瞼を開くと、そこには見覚えのある顔。そして自分の頬には冷たく冷えた缶ジュース。 「ひーちゃん!!!」  やはり聞き覚えのある声が自分を呼んだかと思うと、突然抱きつかれる。 「死んでるのかと思った!!」 「死ぬ所だった………ってか、熱い!放せっ!!!」  ジタバタ暴れる事数分。漸く森川が離れ、起き上がる事が出来た。余計に熱さが増した気がするのは気のせいではないだろう。 「ま、とりあえず、はい。」  にこにこと笑いながら手渡してきたのはさっき頬に当てられていたであろう缶ジュース。 「あ、どうも。」  受け取ると、わくわくとした様子でじっと森川に見られ、その視線から逃れるように缶ジュースをあけて一気に飲む。 「あー……」  一気に体中に水分が行き渡る気がする。  そんな檜山を見て、森川は嬉しそうに笑った。 「合鍵持ってて良かったね。ひーちゃん。」 「そうだな。」  今回は、と心の中で付け加えたのは秘密だ。 「それにしても、どうしてこんなに部屋熱くしてるの?もしかしてサウナ?ダイエット?」 「クーラーが壊れたんだよ!!」  こんな命がけのダイエットをする奴がどこにいる!? 「だったら少しでも涼しくなるようにしたらいいのに。」 「………団扇も扇風機も何の役にも立たないぞ。」  いそいそと団扇や扇風機を動かそうとした森川の手が止まる。 「ま、こんなに熱いと仕方ないか。………あ!!ちょっと待ってて♪」  何かを思いついたようで、森川は自分の目の前から消え、部屋から出て行った。 音からして、風呂場の方へ向かったようだが……何をする気だ?  何をするでもなく、先程森川のくれた缶ジュースを見る。汗をかいているそのジュースの水滴を軽く指でぬぐった。 「ひーちゃん、氷貰っていい?」  いつの間に後ろにいたのか、森川が問い掛けてくる。 「いいけど、どうするんだ?」  こいつの思考回路からして……カキ氷かもしれない。だが家にそんなものは無いぞ。 そんな事を考えていると、森川の手が後ろからぬっと伸びてきて、目の前にあるジュースを奪った。 「あっ!」 「一口だよ。ひ・と・く・ち☆全部取ったりしないから。」  そう言ってぐいっとジュースを飲むと、森川は大量の氷をボールに詰めて持っていってしまった。 「……何考えてるんだよ……」  とうとう森川はこの熱さでどうにかしてしまったのかもしれない。 ……落ち着け、こいつは元々こういうノリだった。自分が熱さでいらいらしているんだ。  それにしても熱い。太陽を隠す雲も無く、風も殆ど無い。じっとりとした湿気が熱さをさらにパワーアップさせているようだ。  森川は一体何をしてるんだ?そんな事を考えながら団扇を手にする。……少しは涼しいんだけど、やはり熱いのには変わりない。 「お〜〜〜い、ひーちゃーん!!」  団扇や扇風機を使ってできる限りの涼しさを満喫していた時、風呂場から森川が呼んだ。 「こっちきて〜〜〜〜〜!!!!」 「何なんだ…?」  結局、あの氷は何に使ったんだろう?そんな事を考えながら熱さにだれている体を引きずるように歩く。 「ひーちゃん。」  風呂場に行くと、森川がズボンの裾を膝までまくり、湯船に足を浸していた。 「風呂場って、涼しいんだな……」  タイル張りだからだろうか、風呂場は他の部屋に比べて少し涼しい。 「足冷やすともっと涼しくなるんだよ。ほら。」  湯船の五分の一くらいまで水がはってあり、たくさんの氷が浮いている。 「その為の氷だったのか。」 「そーゆーこと。」  ニコニコしながら森川がそう言って俺の腕を引っ張った。 「ほらほら、ひーちゃんも座って。」  言われるままに湯船の淵に腰掛けて、足を氷水に浸してみる。 「冷てぇぇぇ………。」  足だけが冷たくなる。と思ったが、予想を反して凄く涼しい。 「でしょ〜〜?」 「冷えるんだなぁ。こんな事で。」 「普通に部屋で桶とか使ってやるのも良いんだけどね。ここの方がタイルのおかげで涼しいでしょ?」 「そうだな。」  頷いて、足元で浮いている氷を足で突付いて遊ぶ。 「助かったよ。」 「偉いでしょ?ほめて?」 「よしよし。」  ノリで頭をわしゃわしゃと撫ぜてやると、嬉しそうに笑う。  ………犬みたいだ………。 「ん?どうしたの?」 「いや、何でも無い。」  ペットは飼い主に似るって言うけど、飼い主がペットに似てくるのかもなぁ…。 「ひーちゃん、カキ氷食べたい。」 「は?」  しみじみ考えていたら、突然森川がそんな事を言ってきた。 「カキ氷。」 「カキ氷?」 「食べたい。」 「……そうか。」  何気なく話を終わらせようとするが、森川がそれを許さない。 「ねぇひーちゃん、カキ氷ぃ。」 「……。」 「カキ氷ぃ〜〜〜〜。」 「……。」 「食べたいよぉ〜〜〜〜〜。」 「……つまりそれは、俺にカキ氷を買って来いと?」  そう問い掛けると、森川が目を輝かせて頷いた。 「この熱い中?」 「まさか。夕暮れくらいになったら、一緒にコンビニまでカキ氷買いに行こう?」 「わかった。後で行こうな。」 「やった〜〜!」  まぁ、そんな事が今日の午前中にあった訳で……。  夕方、日が暮れて温度が下がり、二人は約束どおりコンビニでカキ氷を買った。 「……なぁ、」  不機嫌そうな声を出したのは檜山だった。 「なぁに?」 「……何で俺はお前の家にいるんだ?」  コンビニ帰り、森川が行きたい場所があるといって腕を引っ張るからついて行ったら、そこは森川の家だった。 「ま、気にしない。気にしない。」 「あともう一つ。」  笑顔で答える森川に、檜山が眉間にしわを寄せながら質問をする。 「何?」 「熱さ対策の選択肢に、自分の家に帰るって手は無かったのか?」  その質問に、森川は小さく笑う。 「あったよ。」 「俺をお前の家に連れて行くなら、わざわざ俺の風呂場で涼まなくても良かっただろ?」 「まぁねぇ。」  曖昧に笑いながら森川が先程買ったカキ氷をビニル袋から取り出す。 「だったらなんでだよ?」 「それは、」  木のまっ平らなスプーンをカキ氷に突き刺して、俺の問いに答えた。 「ひーちゃんの傍にいられるから。」  確かに距離は近かったけど……。 「それだけ?」 「それだけ。」  ……そんな理由かよ。 「でも涼しかったからいい、か。」  そう思いながら少し柔らかくなったカキ氷にスプーンを刺した。 「ひーちゃん、クーラー直ってよかったね。」 「そうだなぁ。」  これで瀕死になる事は避けられる。 「もしもまた壊れたら、」 「不吉な事を言うな!!!」 「これ。」  そう言って手渡されたのは……鍵? 「これ、お前の家の合鍵か?」 「そう。勝手に入って涼んでて良いからね。」  クーラーが壊れたのは災難だったが、こうやって森川と話す事が出来たし、結構満足かもしれない。 心の中でそう思いながら、鍵をポケットへとしまった。 … 後日談 … 「あ、ひーちゃん!!」  檜山は森川の家に来ていた。 「どうしたの?本当にクーラー壊れちゃった?」 「そうなんだよ。」  直してもらって早々、クーラーが動かなくなってしまった。どうやら直した時に何かをいじってしまったらしい。 「と言う訳で、電気屋の人がクーラー直しに来る時間までここに居ていいか?」 「勿論♪…へへへ〜〜〜〜☆」 「嬉しそうだな。」 「まぁねぇ。」  またもやクーラーが故障した事に感謝しながら、森川は嬉しい来客に冷たくひえた麦茶を手渡した。
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相方の天地冥華さんからのいただきモノ♪
残暑見舞いということでいただきました♪
檜山さんの誕生日に届いたというのがまた…♪

もりひー進展!?
鍵をもらってしまった檜山さん♪
猛暑でボイス・ウェポン発動!?Σ(・口・;
なんだかこの雰囲気…空気が良いです♪♪♪
まいどありがとう〜〜〜〜!!!